芸術の基盤

現役学芸員が伝える現代美術とは?現在美術の基礎に迫った。

あなたは「現代美術」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。

現代美術と聞くとなんだか難しく、とにかくよくわからないもの、と感じる方もいるかもしれません。

今回は、そんな方にこそぜひ知って欲しい現代美術の面白さについてご紹介します。

 現代美術とは「同時代における社会情勢や問題を反映し、美術史そのものや世の中へ批判的な態度を持つ」作品だと定義することができます。

「社会問題」や「批判」などの言葉が出てくると途端に難しく、生活からかけ離れたもののように感じてしまうかもしれません 。

その実、現代美術作品の多くは私たちが普段生活する中で不満に思ったり、なんとかしたいと感じることについて言及しています。作者はどのような考えでこの作品を作ったのだろう?そういった疑問を切り口に作品に対峙してみると思いがけず親近感を感じられるかもしれません。

また、現代美術は常に「同時代性」を含みます。

これからご紹介する3つの作品は、現代美術が美術史に登場してきたときから現在まで、それぞれの時代を反映しています。「今」に近づくほどに、現在を生きる私たちにとってより身近に感じられるかもしれません。

 

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初心者でもわかる現代美術

引用: https://d2jv9003bew7ag.cloudfront.net/uploads/Image-via-broadmuseum.msu_.edu_.jpg

現代美術とは、同時代における社会情勢や問題を反映し、美術史そのものや世の中へ批判的な態度を持つ作品、つまり私たちの目の前の現状を美術という方法をとって映し出したものです。

そのため、一見して意味不明と思われる作品もその真意はかなり共感できるものが多いのです。

 

・今、世界で起きていることを知るには現代美術の作品や動向をみることが有効です。現代美術作品は社会情勢などがモチーフになっていることが多く、例えば海外で起きていることをその国の現代美術作家の作品を通して見てみたら、より深い理解を得られることがあります。

 

以上を踏まえて、現代美術を見るときに、その作品はいつどこで誰が作ったものかを知ってみるとより一層楽しめるはずです。現在、国内の展覧会ではそのほとんどの作品にキャプションが設置され解説を読むことができます。

なんだこれ?と気になったら、ぜひ作者のバックグラウンドなどを知ってみると更に気づくことがあるかもしれません。

学芸員が選ぶ現代美術の代表作3選

『一つ目:マルセル・デュシャンの「泉」Marcel Duchamp Fountain ,1917』

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まずご紹介するのは、

現代美術の父と言われるフランス人作家マルセル・デュシャンの『泉』という作品です。

しかしながら、ご覧の通りこれは男性用小便器です。便器が美術作品?とバカバカしい気持ちになるかもしれません。しかし、この便器が重要な美術作品と捉えられるには、その当時の潮流とこの作品が引き起こした騒動が大きな理由となっています。

1917年、誰もが美術作品を制作し展示をすることができる「ニューヨーク・アンデパンダン」という展覧会にデュシャンはこの作品を出展しました。しかし運営側の許可がおりず撤去されてしまいます。

そのことから「自由」「誰にでも開かれている」はずの美術にもルールがあるということが明るみになったのです。この一連の騒動が議論を呼んだと同時に、工業製品として作られた便器にサインを入れ美術作品とした、のちに「レディメイド」と呼ばれる手法はそれまでの美術の決まりごとを覆し、美術そのものを拡張することになりました。

『二つ目:フェリックス・ゴンザレス・トレス「Untitled」 (USA Today)1990』

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続いてご紹介する作品はキューバ出身のフェリックス・ゴンザレス・トレスによるキャンディーの彫刻作品です。決められた重量分(この場合は136キロ)のキャンディーと来場者はそれを自由に持ち帰ることができるという趣旨の指示書によって構成された作品です。よく見てみるとキャンディーの包装紙の色はアメリカ国旗に用いられる赤・白(シルバー)・青になっています。来場者がキャンディーを持ち帰るたびにこの作品は形を変え、なくなるとまた同じ分量のキャンディーが補充されます。キッチュで可愛らしいキャンディーという素材を使用しながら資本主義が台頭する状況についてミニマルに表すと同時に、彼自身がセクシャル・マイノリティーであることから(恋人とエイズで死別し、本人もエイズに侵されていた)物体の喪失や時間の停止などどこか死を思わせるのも特徴的です。制作された時代を考えると1980年代にエイズ危機を迎えたアメリカのその後といった読み方もできるかもしれません。そして、鑑賞者もキャンディーを持ち帰ることによって作品の一部を担うことになるという方法は更に美術表現の枠を押し広げるものであったと言えます。

 

『三つ目:ソフィ・カル「限局性激痛」Sophie Calle Exquisite Pain, 1984-2003』

引用: https://www.vogue.co.jp/blog/wp-content/uploads/sites/3/import/6b14b440.jpg

 

 3つ目にご紹介するのはフランス人女性アーティストのソフィ・カルです。カルは、見知ぬ人を尾行したり、落とし物の手帖からその持ち主の人物像を探り出すなどエキセントリックな方法で作品を制作し、そのようにしてできた作品を前に鑑賞者は、なぜか人ごとと思えず見入ってしまう、不思議な魅力を持ちます。それはカルが常に他者に起きた出来事を題材にしており、その作風は他者依存型とも言えます。1980年代以降、西欧を中心に「自主自立」が掲げられ、個人を尊重するという一見ポジティブなその風潮はしかし、裏を返せば誰しもが自身の人生に責任を持ち全うしなければならないという半ば重圧を感じるものであったとも言えます。そんな中、他者に依存したカルの作品は、束の間自身の人生を放棄できる奇妙な安堵感を感じさせるものであったため、人々に親しまれたのかもしれません。「限局性激痛」は、カルの体験した恋人との辛い別れが直接的に作品の題材になっており、失恋を経験した誰もがつい共感してしまう痛みを伴う内容です。ロードームービーを見ているような、他者の人生を覗き見しているような体験を伴うカルの作品は、ごく身近な、むしろ生活そのものを作品としているため、親近感を感じられるのです。

 2019年1月5日から原美術館で本作が展示されます。ぜひ実際に体験していただけたら幸いです。

 

(展覧会情報リンク:https://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/382/)

 

【現代美術と近代美術の違いとは?】

 

続いて現代美術と近代美術はどのような違いがあるのかお話ししていきます。しかしながら、この両者の違いについては厳密には定義がされていないのが現状です。そのため、様々な読み解き方ができる中で、今回は筆者が納得している一説をご紹介します。

 まず、近代美術と現代美術は時代区分によって分けることができます。第二次世界大戦以後を現代とし、それ以前の美術活動を近代美術、それ以後を現代美術と捉える方法です。年号を伴い区分けすることができるので、このように考えると案外すっきりと把握できます。そして、戦争という大きな出来事を契機に世界的な美術の中心地が移行したことも両者の差異に大きく影響しています。その変化を以下のようにまとめることができます。

 第二次世界大戦前の近代美術は主にヨーロッパを中心に19世紀半ばから起きた美術活動を指します。印象派から象徴主義、フォーヴィスムやドイツ表現主義、キュビスム、そしてダダ、シュールレアリズムなどアバンギャルドも近代美術ということができます。一方、第二次世界大戦後の現代美術の中心地はアメリカです。絵画の枠を飛び出すような抽象表現主義やミニマルアート、ポップアート、コンセプチュアルアートなどがその代表格です。つまり、第二次世界大戦を境とし、それ以前にヨーロッパを中心に繰り広げられていた実験的な芸術活動を近代芸術、その後にアメリカを中心に繁栄した活動を現代美術と定義つけることができます。そのため、近代美術はヨーロッパ、現代美術はアメリカと考えることもある意味では可能です。また、戦後アメリカの現代美術も1970年代を境にガラリと様変わりします。それは近代美術から戦後1960年代までの現代美術の基盤であった「モダニズム(近代主義)」という思想が終焉を遂げ、ポストモダニズムの時代が訪れたためです。そのため、ポストモダン以降の表現を現代美術とする考えもあります。

 以上のように、時代と地域、または思想の違いから現代美術と近代美術を分けて考えることができます。しかしどれか一つを定説とするのではなく、それぞれの作品をより深く理解するための一つの指標と捉えていくのがより面白い方法かもしれません。現に本稿において先に現代美術作品の例として、デュシャンの「泉」を挙げましたが、第二次世界大戦以前に作られた「泉」は上記の区分で分類すれば近代美術ということになります。もちろん、それは間違っていません。しかし、従来の美術のあり方を批判しながら美術の持つ可能性を一気に拡張した現代美術の気概そのもののような作品であるため、現代美術の祖として今も重要な役割を担っていることもまた事実です。このように、一つの作品を語る中でも現代美術と近代美術の区分は入り組み混じり合っています。やや複雑ではありますが、美術の区分を考えるときに時代や地域性、そしてその作品自体が言及する意味を考えてみるというのは、美術と向き合う上で最も大切で面白い部分でもあります。そのことに触れながら、最後に、現代美術を楽しむための見方をご紹介します。

芸術大海(まとめ)

現代美術は、決して遠い誰かの難しい思想ではなく、ごく身近な私たちの生活に寄り添うものです。

そんな現代美術を通して、いろいろな世界をより間近で見る機会を得ていただけたらいいなと思います。